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仙台高等裁判所 昭和31年(ラ)46号 決定

抗告人 庄司忠一 外一名

主文

昭和三十一年(ラ)第四三号事件につき抗告人庄司忠一の抗告を棄却する。

昭和三十一年(ラ)第四五号事件につき抗告人庄司忠一の抗告を却下する。

昭和三十一年(ラ)第四六号事件につき抗告人仙台信用金庫の抗告を棄却する。

理由

昭和三十一年(ラ)第四三号事件の抗告理由

仙台地方裁判所は昭和三十年十一月十六日別紙目録記載の不動産につき競落許可決定をしたが、本件競売手続には左の違法があるから、原決定を取り消すべき旨の裁判を求める。

一、昭和三十年十一月十四日の競売期日において、執行吏大槻馨は最高価競買人仙台信用金庫の氏名及びその価額を三度繰り返し呼び上げるべきに拘らず、一度しかその呼上をせずして競売を終局した。

二、競売物件中、別紙目録記載第一の宅地は実測百七坪七合五勺あるに拘らず、これを百二坪として公告した。即ち競売期日の公告に適法な要件を欠くに拘らず競落許可決定をしたものである。

昭和三十一年(ラ)第四四号事件の抗告理由

別紙目録記載の不動産につき仙台地方裁判所が昭和三十年十一月十六日した決定に対し、同裁判所は昭和三十一年四月二十四日再度の考案をなし、右競落許可決定のうち、別紙目録記載第一の宅地に関する部分を取り消す旨の決定をした。しかし、右宅地は別紙目録記載の他の不動産と一括して競売に付されたものであるから、競売手続上これらの建物と不可分一体の関係に立ち、その一部についてのみ競落許可決定を取り消すことは違法であるから、右決定の取消を求める。なお、別紙目録記載第一の宅地の実測面積が百七坪七合五勺であるならば、競落価額を比率によつて増額のうえ抗告人を競落人とする競落許可決定をなすべきである。

昭和三十一年(ラ)第四五号事件の抗告理由

仙台地方裁判所が昭和三十一年四月二十四日した更正決定は、同裁判所が昭和三十年十一月十六日した競落許可決定のうち、別紙目録記載第一の宅地に関する部分のみ取り消し、同第二、第三の建物に関する部分の取消をしないので、前記第四三号事件の抗告理由二の理由によりこれが取消を求めるため抗告に及ぶ。

昭和三十一年(ラ)第四六号事件の抗告理由

仙台地方裁判所は前記昭和三十一年(ラ)第四四号事件において、昭和三十一年四月二十四日した更正決定につき更に再度の考案をなし、同年五月十七日右更正決定を取り消し、昭和三十年十一月十六日した競落許可決定のうち、別紙目録記載第一、第二の不動産に関する部分を取り消す旨の決定をした。しかし、本件競売手続は別紙目録記載の不動産全部についてなされたので、抗告人はその全部を取得する目的で競売の申出をしたものであつて、今その一部だけしか競落が許されぬとすればその目的を達することができないから右決定のうち、別紙目録記載第一、第二の不動産に関する競落許可決定を取り消す部分の取消を求める。

当裁判所の判断

本件記録によれば、原裁判所が昭和三十年十一月十六日別紙目録記載の不動産全部につきした競落許可決定に対し、抗告人庄司忠一から抗告の申立をしたところ(昭和三十一年(ラ)第四三号)、原裁判所は昭和三十一年四月二十四日再度の考案により別紙目録記載の不動産のうち、第一の宅地に関する部分の前記競落許可決定を取り消したこと、右取消決定に対し、抗告人仙台信用金庫から、抗告を申し立てたところ(昭和三十一年(ラ)第四四号)、原裁判所は同年五月十七日更に再度の考案をなし、右決定を取り消し、前記競落許可決定のうち別紙目録記載第一、第二の不動産に関する部分を取り消す旨の決定をしたところ、同抗告人は右決定に対し更に抗告をした(昭和三十一年(ラ)第四六号)ものであること、抗告人庄司忠一は原裁判所において昭和三十一年四月二十四日前記更正決定をした後更に別紙目録記載第二、第三の不動産に関する前記競落許可決定の取消を求めるため抗告を申し立てたものであることが認められる。ところで、再度の考案により原決定が更正されると、その限度において抗告もその目的を達し抗告手続は終了するものと解すべく、従つて又更正決定に対し抗告ある場合、抗告裁判所は更正前の抗告については判断を要しないものであるから、抗告人庄司忠一のした昭和三十一年(ラ)第四三号事件については、別紙目録記載第三の建物についての競落許可決定の当否について判断をなせば足り、同第一、第二の不動産に関する競落許可決定の当否は判断することを要しないし、又抗告人仙台信用金庫の昭和三十一年(ラ)第四四号事件についての判断もまたこれを要しないものといわねばならない。

よつて、まず、昭和三十一年(ラ)第四三号事件につき別紙目録記載第三の建物に関する競落許可決定の当否につき判断するに、不動産の競売手続においては、執行吏において競売の終局を告知する際最高価競買人の氏名及びその価額を呼び上げれば足り、動産の競売手続における最高価競売のための競落の場合のようにその価額を三回呼び上げることを要しないことは競売法及びその準用する民事訴訟法の規定により明かであるから、抗告人の主張は理由がなくその他に本件記録を精査しても、本件競売手続には原裁判所が昭和三十年十一月十六日した競落許可決定中別紙目録記載第三の建物に関する部分を取り消すべき瑕疵がない(原裁判所による武田秀雄審問の結果は措信しない)から、本件抗告は失当である。

つぎに抗告人庄司忠一の昭和三十一年(ラ)第四五号事件の抗告の適否につき判断するに、本件抗告理由は前記第四三号事件の抗告理由と同一であつて、原裁判所が昭和三十年十一月十六日した競落許可決定に対しては、既に前記第四三号事件として抗告人から抗告が提起されているのであるから、これに対し更に抗告を提起し得ないものといわねばならない。又仮りに本件抗告が、原裁判所が昭和三十一年四月二十四日した更正決定に対する抗告であるとしても、別紙目録記載第三の建物に関する競落許可決定の当否は再度の考案の対象とならず前記第四三号事件として抗告審において審判を受けるようになつたのであるから、再度の考案がなされず更正決定から除外されたからといつて、右更正決定に対し更に抗告することは許されないものといわねばならない。よつて本件抗告は不適法であるから、これを却下すべきものである。

つぎに抗告人仙台信用金庫の昭和三十一年(ラ)第四六号事件につき判断するに、本件記録によれば、別紙目録記載第一の宅地の坪数が公簿面により百二坪として公告されているところ、原裁判所における佐藤馨審問の結果によると右宅地の実測は百二坪を越えるものであつて、その相違は最低競売価額の算定にも影響を及ぼすものであることが認められるから、本件競売期日の公告には右宅地につき民事訴訟法第六百五十八条第一号、第六号の表示を具備しない違法があり、右宅地が別紙目録記載第二の建物と一括して競売に付されたものであることは記録上明かであるから、右違法は右建物の競落にも及ぶものであることはいうまでもないから、原裁判所が昭和三十年十一月十六日した競落許可決定中右宅地建物に関する部分はこれを取り消すべきものである。抗告人は、本件競売は別紙目録記載の不動産全部についてなされたので、その全部を取得する目的で競買の申出をしたのであるから、今その一部だけしか競落が許されぬとすればその目的を達することができない旨主張するけれども、本件記録によれば、別紙目録記載第一、第二の不動産は一括して、第三の不動産と各別に競売に付されたものであることが明かであるから、その全部を取得し得ない場合のあることは止むを得ないところであつて、これをもつて右決定を取り消す理由とはならない。又抗告人は競売の目的たる宅地の公告に表示された坪数が実測と異る場合にはその増加した坪数の比率によつて競落価額を増額すれば足りる旨主張するけれども、公告された坪数が実測された坪数と異なり、その相異が最低競売価額の算定に影響を及ぼすときは、ひいてその競売価額にも変動を生ずることは明かであつて、その変動は単に変動した坪数に比例するものではないから、民事訴訟法第六百七十二条第四号に、競売期日の公告に第六百五十八条に掲げた要件の記載のないことを競落許可に対する異議、抗告の理由としたことの趣旨からしても右主張は採用できない。本件抗告は理由がない。

よつて民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第三百八十三条により主文のとおり決定する。

(裁判官 石井義彦 上野正秋 兼築義春)

目録

第一、仙台市小田原清水沼通六番の一

一、宅地 百二坪

第二、仙台市小田原清水沼通六番の一

家屋番号 第二十番の二

一、木造スレート葺二階建事務所 一棟

建坪 八坪五合

外二階坪 五坪七合五勺

附属建物

木造瓦葺二階建居宅 一棟

建坪 十五坪六合二勺

外二階 十坪五合

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建釜場 一棟

建坪 二坪

木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建事務所 一棟

建坪 五坪

木造木羽葺二階建物置兼居宅 一棟

建坪 十六坪二合五勺

外二階 十三坪

第三、仙台市小田原清水沼通六番

家屋番号第二十四番

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家屋居宅 一棟

建坪 十六坪二合

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